Turbulence Series
Turbulence Series は2012年12月〜2013年1月に名古屋市のGallery/Studio葵倶楽部の個展で発表した。
当初、この個展は「捏造:高木正樹」シリーズのみで構想していたが、ギャラリーのオーナーから、新作絵画を望まれ、暫く絵画の制作から離れていたが、1年間かけて制作した。
久しぶりの絵画の制作は新鮮で、それまで意識せず、つい行ってしまっていた「絵を作ろう」とする行為を可能な限り排除することを心がけた。
このTurbulence Seriesには二つの連作がある。
Katagami(写真上)とJean Duvet(写真下)である。
Turbulence Series; Jean Duvet
Turbulennce Series; Jean Duvet No.1 2012 285×570mm 紙に油彩、テンペラ
Turbulence Series; Jean Duvet No.2 2012 285×570mm 紙に油彩、テンペラ
Turbulence Series; Jean Duvet No.3 2012 285×570mm 紙に油彩、テンペラ
Turbulence Series; Jean Duvet No.4 2012 285×570mm 紙に油彩、テンペラ
Jean Duvetは1485年生まれのフォンテーヌブロー派に近い所謂マニエリスムの版画家であり、モティーフが異様に詰め込まれ奥行きを喪失したような特異な画面空間のビュラン版画を制作している。
1982年頃私は、Geneticsシリーズの作品を制作していたが、作品がややマンネリになって来てしまったと感じることがあった。この時、このJean Duvetの版画作品を基に作画を試み、その脱却を図ったことがある。その作品がGenetics 82-8とGenetics 82-9である。
今回の葵倶楽部での個展では久し振りに絵画作品も出品することになり、初心に返る意味であの時と同一のJean Duvetの版画作品を基に制作してみることにした。
あの時と違って今回は自分自身でもこれから生まれる作品がどのようなものになって行くのか予想が全く立たなかったので、版画作品から特に込み入った描き込みのなされている箇所を正方形にトリミングし、上下左右がどちらに向いても成立するように用いてみた。結果的には、No.1からNo.4まで全てが異なる向きの使い方となった。
これと並行しながら、紅型の型紙を基にした作品も制作していて、徐々に気流や水流のイメージが強くなって来ていたが、このJean Duvetの版画を基に制作しながら、これからのシリーズをTurbulence(乱流)とすべきことを確信した。
このシリーズ名の由来には、もちろん、かのレオナルドダヴィンチの「水の素描」が関わっていることは言うまでもない。
2012年葵倶楽部での個展を控えて
永 津 禎 三
Jean Duvet(1485-1570頃)〈一角獣につきまとわれる王の狩り〉
1560年頃 ビュラン彫 234×389mm
Jean Duvet(1485-1570頃)
〈第六のトランペットを吹く天使(黙示録第9章〉
1555年頃 ビュラン彫 295×208mm
Genetics 82-8 100×80cm egg tempera 1982
Genetics 82-9 100×80cm egg tempera 1982
No.1
No.2
No.3
No.4
Turbulence Series; Katagami
今回の葵倶楽部での個展には、久し振りに絵画作品も出品することになり、この町家を改装したギャラリー空間を意識してT型画面の作品を制作することにした。
イメージとしては着物の形態であるが、これ以前の問題としてT型にはいろいろなこだわりがある。
まず、1991年に開催した浦添市美術館での個展にふれなければならないだろう。このとき、会場構成として最終的に制作した作品がT型画面の作品であった(右写真)。美術館第3室の入口横の壁面に合わせて制作したのだが、収まりとしてはまずまずであるが、作品の完成度は作家本人としてかなり悔やむものがあった。
一番問題なのが、三幅対の真ん中のパネルは縦寸法が両翼の2倍であるのに対して幅は両翼と同じであることで、構想段階としてはこれで成り立つものと考えていたが、実際にはこの狭さが作画中にどうしても上手くいかない原因となった。
いつかはじっくりとT型画面に再度挑戦して、納得のいく仕事をしたいと思いながら、以降まとまった絵画の仕事をしてこなかった。
今年4月に、沖縄県立博物館・美術館で、かつてないほど大規模な「紅型展」が開催された。会場で古典紅型の名作を数多く鑑賞し、その型紙使用法の自由さと面白さに改めて感動した。
私にとって特に興味深かったのが、縦5(〜5.5):横4程度の比率の型紙が用いられた紅型で、これらの衣装はその型紙が繰り返し刷られた反物を組み合わせることで成り立っている。琉球王家伝来の大柄(一柄で衣装の上から下まで構成されているもの)は豪華ではあるが、型としての機能や面白さは、繰り返し刷られた反物で作られた衣装の方が優れているように感じた。
何より面白いのは、身頃と袖の4枚の反物が同じ向きであるものは少なく、どれかの反物が逆向きに使われ、このことが衣装のデザインを優れたものにしていることである(例えば右の紅型衣装は順順逆逆)。場合によっては、型紙を裏返しにして刷られた柄の反物を使用していることもあり、このような自由さと構成力の素晴らしさに感動したのでる。
このような型の機能や面白さを私の絵画作品の骨格として利用しようと試みたのが今回のTurbulence Series; Katagamiである。
型は古典琉球紅型からの一枚を選んだ。この柄は橋と水流が特徴的な構成を示しており、数多くのバリエーションを創り出す可能性を秘めているように感じた。
はじめに型紙の組み合わせ方をパソコン上で数々試み、「型紙組み合わせによる構成No. 1」と「型紙組み合わせによる構成No. 2」を基本的な構造として決定した。次に、この基本構造を用いた「Esquisse No. 1」と「Esqu-isse No. 2」を制作してみた。
型紙組み合わせによる構成 No. 1
Esquisse No. 1
型紙組み合わせによる構成 No. 2
Esquisse No. 2
この時点で、沖縄でのグループ展があったので、この二つのエスキスを出品することを考えた。ところが「Esquisse No. 1」の右身頃と「Esqu-isse No. 2」の左身頃が全く同じパターンを用いていることに気が付き、これを交換してみた。この取り替えは大変に面白く、複写した「Esquisse No. 1」と「Esquisse No. 2」の袖や身頃を様々に組み合わせて、数多くのバリエーションが生まれた。グループ展にはこの中から選択した4点を展示した。
本作品の構図決定については、これらの組み合わせも含めて考えたが、今回に関しては、まず基本構造の2点を制作することにした。No. 1は板に卵黄テンペラ、No. 2はキャンバスに樹脂テンペラと油彩の混合技法とし、素材による表情の違いを出すことにした。
型紙については、元々は糊置きする型を、孔部に絵具を置くものに作り替えた原画を私が作成し、型紙彫りは仲井眞麻さんの協力を得られたのでお願いした。
琉球紅型型紙
今回の作品制作のために左の型紙の孔部を反転した
Turbulence Series; Katagami No.1 120×160cm egg tempera on panel 2012
Turbulence Series; Katagami No.2 120×160cm tempera, oil on canvas 2012